葯《やく》が動き、その葯《やく》からさらさらとした油気《あぶらけ》のない花粉が落ちて来て、昆虫の毛のある頭へ降りかかる。
そしてこの昆虫がよい加減《かげん》蜜《みつ》を吸うたうえは、頭に花粉をつけたままこの花を辞《じ》し去って他の花へ行く。そして同じく花中へ頭を突き込む。その時、前の花から頭へつけて来た花粉を今度の花の花柱《かちゅう》、それはちょうど昆虫の頭のところへ出て来ている花柱の末端《まったん》の柱頭《ちゅうとう》へつける。この柱頭には粘液《ねんえき》が出ていて、持って来た花粉がそれに粘着《ねんちゃく》する。花粉が粘着すると、さっそく花粉管が花粉より延《の》び出て、花柱の中を通って子房《しぼう》の中の卵子《らんし》に達し、それから卵子が生長して種子となるが、それと同時に子房は成熟して果実となるのである。
実にスミレ類は、このように昆虫とは縁の深い関係になっているのである。しかしかく昆虫に努力させても、花が果実を結ばず無駄咲《むだざ》きをしているものが多いのは、まことにもったいなき次第《しだい》である。それはちょうど水仙《すいせん》の花、ヒガンバナの花などと同じ趣《おもむき》で
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