eck」は斜体]. のスミレは、その常花《じょうか》の後で能《よ》く果実の稔《みの》っているものを見かけることがある。このスミレもその後では、しきりと閉鎖花《へいさか》によっての果実が続々とできるのである。
 いったい、スミレの花は昆虫に対し、とても巧妙《こうみょう》にできている。まず花は側方《そくほう》に向いているので、昆虫が来て止まるに都合《つごう》がよい。花弁は上の方に二|片《へん》、両側に二片、下の方に一片がある。そしてこの一片の後方に一つの距《きょ》のあることは、前に記したとおりである。
 花が開いていると、たちまち蜜蜂《みつばち》のごとき昆虫の訪問がある。それは花の後《うし》ろにある距《きょ》の中の蜜《みつ》を吸いに来たお客様である。さっそく自分の頭を花中へ突き入れる。そしてその嘴《くちばし》を距《きょ》の中へ突き込むと、その距《きょ》の中に二つの梃子《てこ》のようなものが出ていてそれに触《ふ》れる。この梃子《てこ》ようのものは、五|雄蕊《ゆうずい》中の下の二|雄蕊《ゆうずい》から突き出たもので、昆虫の嘴《くちばし》がこれに触《ふ》れてそれを動かすために、雄蕊《ゆうずい》の
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