ちょう》に一|輪《りん》着《つ》き、側方《そくほう》に向こうて開いている。花茎《かけい》にはかならずその途中に狭長《きょうちょう》な苞《ほう》がほとんど対生《たいせい》して着《つ》いており、花には緑色の五|萼片《がくへん》と、色のある五|花弁《かべん》と、五|雄蕊《ゆうずい》と、一|雌蕊《しずい》とがある。花茎《かけい》は一株から一、二本、肥《こ》えた株では十本余りも出ることがある。そして濃紫色《のうししょく》の花が、いつも人目《ひとめ》を惹《ひ》くのである。
 五|片《へん》の花弁中、下方の一花弁には、後《うし》ろに突き出た距《きょ》と称するものを持っている。元来《がんらい》、このスミレの花は虫媒花《ちゅうばいか》なれども、今日《こんにち》ではたいていのスミレ類は果実が稔《みの》らない。そして花の済《す》んだ後に、微小《びしょう》なる閉鎖花《へいさか》がしきりに生じて自家受精《じかじゅせい》をなし、能《よ》く果実ができる特性がある。ゆえにスミレの美花《びか》はまったくむだに咲いているわけだ。しかしここにいう Viola mandshurica W[#「W」は斜体]. Beck[#「B
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