色は赤味がかったオレンジ色であるから、あまり引き立たないが、なんとなく上品である。そしてこの紫根染《しこんぞ》めも茜染《あかねぞ》めもいろいろの模様《もよう》を置くことができず、みな絞《しぼ》り染《ぞ》めである。
ムラサキと武蔵野《むさしの》はつきものであるが、今日《こんにち》武蔵野にはムラサキは生じていない。しかし昔はそれがあったものと見えて、「紫の一もとゆえに武蔵野の、草はみながら憐《あわ》れとぞ見る」という有名な歌が遺《のこ》っている。
ムラサキを採《と》りたい人は、富士山の裾野《すその》へ行けば、どこかで見つかるであろう。
[#「ムラサキの図」のキャプション付きの図(fig46821_08.png)入る]
スミレ
春の野といえば、すぐにスミレが連想せられる。実際スミレは春の野に咲く花であるが、しかし人家の庭には栽培してはいない。万葉歌の中にはスミレが出ているから、歌人《かじん》はこれに関心を持っていたことがわかる。すなわちその歌は、「春の野《ぬ》にすみれ摘《つ》みにと来《こ》し吾《あれ》ぞ、野《ぬ》をなつかしみ一夜《ひとよ》宿《ね》にける」である。
スミ
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