入る]

     ムラサキ

『万葉集』に「託馬野《つくまぬ》に生ふる紫草衣《むらさききぬ》に染め、いまだ着ずして色に出《い》でけり」という歌があって、この時分|染料《せんりょう》として、ふつうに紫草《むらさきぐさ》を使っていたことを示している。
 ムラサキは日本の名で、紫草《しそう》は中国の名である。根が紫色で、紫を染《そ》める染料となるので、この名がある。そしてその学名は Lithospermum erythrorhizon Sieb[#「Sieb」は斜体]. et Zucc[#「et Zucc」は斜体]. である。すなわちこの種名の erythrorhizon は、字からいえば赤根《せきこん》の意であるが、その意味からいえば紫根《しこん》の意と解せられる。属名の Lithospermum は石の種子《しゅし》の意で、この属の果実が、石のように堅《かた》い種子のように見えるから、それでこんな字を用いたものだ。
 このムラサキは、山野向陽《さんやこうよう》の草中に生じている宿根草《しゅっこんそう》で、根は肥厚《ひこう》していて地中に直下し、単一、あるいは枝分《えだわ》かれがしている
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