あり、その三|岐片《きへん》の下には白色|葯《やく》の雄蕊《ゆうずい》を隠している。この花も同属のアヤメ、ハナショウブ、イチハツなどと同じく虫媒花《ちゅうばいか》で、昆虫により雄蕊《ゆうずい》の花粉が柱頭に伝えられる。花がすむと子房《しぼう》が増大し、ついに長楕円状《ちょうだえんじょう》円柱形の果実となり開裂《かいれつ》して種子が出るが、果内《かない》は三室に分かれている。
 花色《かしょく》は紫のものが普通品だが、また栽培品にはまれに白花のもの、白地《しろじ》に紫斑《しはん》のものもある。きわめてまれに萼《がく》、花弁が六|片《へん》になった異品がある。
 学名を Iris laevigata Fisch[#「Fisch」は斜体]. と称するが、その種名の laevigata は光沢《こうたく》あって平滑《へいかつ》な意で、それはその葉に基《もと》づいて名づけたものであろう。そして属名の Iris は虹《にじ》の意で、それは属中多くの花が美麗《びれい》ないろいろの色に咲くから、これを虹にたとえたものだ。

[#「カキツバタの図」のキャプション付きの図(fig46821_07.png)
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