すぎないものである。元来《がんらい》、アジサイは海岸植物のガクアジサイを親として、日本で出生《しゅっせい》した花で、これはけっして中国物ではないことは、われら植物研究者は能《よ》くその如何《いかん》を知っているのである。
 カキツバタは水辺、ならびに湿地《しっち》の宿根草《しゅっこんそう》で、この属中一番|鮮美《せんび》な紫花を開くものである。葉は叢生《そうせい》し、鮮緑色《せんりょくしょく》で幅《はば》広く、扇形《せんけい》に排列《はいれつ》している。初夏《しょか》の候《こう》、葉中《ようちゅう》から茎《くき》を抽《ひ》いて茎梢《けいしょう》に花を着《つ》ける。花のもとに二、三片の大きな緑苞《りょくほう》があって、中に三個の蕾《つぼみ》を擁《よう》し、一日に一|花《か》ずつ咲き出《い》でる。
 花は花下《かか》に緑色の下位子房《かいしぼう》があり、幅《はば》広い萼《がく》三片が垂《た》れて、花を美しく派手《はで》やかに見せており、狭い花弁《かべん》三片が直立し、アヤメの花と同じ様子《ようす》をしている。花中の花柱《かちゅう》は大きく三|岐《き》し、その端《はし》に柱頭《ちゅうとう》が
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