ばすなわち燕子花とはなにか、燕子花の本物はキツネノボタン科に属するヒエンソウの一種で、オオヒエンソウ、すなわち Delphinium grandiflorum L[#「L」は斜体]. と呼ぶ陸生宿根草本《りくせいしゅっこんそうほん》で、藍色《あいいろ》の美花《びか》を一|花穂《かすい》に七、八花も開くものである。その花形《かけい》が、あたかも燕《つばめ》が飛んでいるような恰好《かっこう》から、それで燕子花の名がある。茎《くき》は細長く、高さおよそ六〇センチメートル内外で立ち、葉は細かく分裂し茎《くき》に互生《ごせい》している。そしてこの草は中国の北地、ならびに満州〔中国の東北地方〕には広く原野《げんや》に生じているが、わが日本にはあえて産しない。
 燕子花と同様な大間違《おおまちが》いをしているものは、紫陽花である。日本人はだれでもこの紫陽花をアジサイと信じ切っていれど、これもまことにおめでたい間違《まちが》いをしているのである。この紫陽花は、中国人でもそれが何であるか、その実物を知っていないほど不明な植物で、ただ中国の白楽天《はくらくてん》の詩集に、わずかにその詩が載《の》っているに
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