め、大いに興《きょう》を催《もよお》し、さっそくたくさんな花を摘《つ》んで、その紫汁《しじゅう》でハンケチを染《そ》め、また白シャツに摺《す》り付《つ》けてみたら、たちまち美麗《びれい》に染《そ》まって、大いに喜んだことがあった。その時、興《きょう》に乗《じょう》じて左の拙句《せっく》を吐《は》いてみた。
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衣《きぬ》に摺《す》りし昔の里かかきつばた
ハンケチに摺《す》って見せけりかきつばた
白シャツに摺《す》り付《つ》けて見るかきつばた
この里に業平《なりひら》来ればここも歌
見劣《みおと》りのしぬる光淋屏風《こうりんびょうぶ》かな
見るほどに何《なん》となつかしかきつばた
去《い》ぬは憂《う》し散るを見果《みは》てんかきつばた
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世人《せじん》、イヤ歌読みでも、俳人《はいじん》でも、また学者でも、カキツバタを燕子花と書いて涼《すず》しい顔をして納《おさ》まりかえっているが、なんぞ知らん、燕子花はけっしてカキツバタではなく、これをそういうのは、とんでもない誤《あやま》りであることを吾人《ごじん》は覚《さと》らねばならない。
しから
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