ヤメと呼ぶようになり、これが今日《こんにち》の通称となっている。すなわち白菖《はくしょう》がアヤメであった時は、今日《こんにち》のアヤメがハナアヤメであったが、アヤメの名がショウブとなるに及《およ》んで、ハナアヤメがアヤメとなり、時代により名称に変遷《へんせん》のあったことを示している。
 あまねく人の知っているかの潮来節《いたこぶし》の俚謡《りよう》に、

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潮来出島《いたこでじま》のまこもの中にあやめ咲くとはしおらしい
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 というのがある。この謡《うた》はその中にあるアヤメがこんがらかって、ウソとマコトとで織《お》りなされている。すなわちこの謡《うた》の作者は、謡《うた》のアヤメを美花《びか》の咲く Iris のアヤメとしているけれど、この Iris のアヤメは、けっして水中に生《は》えているマコモの中に咲くことはない。そしてこのアヤメは陸草《りくそう》だから水中には育たない。マコモといっしょになって生《は》えている水草のアヤメは、古名《こめい》のアヤメで今のショウブのことであるから、これならマコモの中にいっしょに生《は》えていても、
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