首《すうしゅ》を次に挙《あ》げてみよう。

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ほととぎす厭《いと》ふときなしあやめぐさ
  かづらにせん日|此《こ》ゆ鳴きわたれ
ほととぎす待てど来鳴かずあやめぐさ
  玉に貫《ぬ》く日をいまだ遠みか
あやめぐさひく手もたゆくながき根の
  いかであさかの沼に生《お》ひけむ
ほととぎす鳴くやさつきのあやめぐさ
  あやめも知らぬ恋もするかな
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 などがある。さてこの歌にあるアヤメグサ、すなわちアヤメは、ショウブすなわち白菖《はくしょう》のことである。(世間《せけん》一般に今ショウブと呼んでいる水草《みずくさ》を菖蒲と書くのは間違いで、菖蒲は実はセキショウの中国名である。ショウブの名はこの菖蒲から出たものではあれど、それは元来《がんらい》は間違いであることをわきまえていなければならない。)そして前の Iris 属のハナアヤメとは、まったく違った草である。
 昔、右のショウブをアヤメといっていた時代には、今の Iris 属のアヤメは、前記のとおりハナアヤメといって花を冠《かん》していたが、ショウブに対するアヤメの名が廃《すた》れた後は、単にア
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