子孫《しそん》を継《つ》ぎ、自分の種属を絶《た》やさぬことに全力を注《そそ》いでいる。だからいつまでも植物が地上に生活し、けっして絶滅《ぜつめつ》することがない。これは動物も同じことであり、人間も同じことであって、なんら違ったことはない。この点、上等下等の生物みな同権である。そして人間の子を生むは前記のとおり草木《くさき》と同様、わが種属を後代《こうだい》へ伝えて断《た》やさせぬためであって、別に特別な意味はない。子を生まなければ種属はついに絶《た》えてしまうにきまっている。つまりわれらは、続かす種属の中継《なかつ》ぎ役をしてこの世に生きているわけだ。
 ゆえに生物学上から見て、そこに中継《なかつ》ぎをし得なく、その義務を怠《おこた》っているものは、人間社会の反逆者であって、独身者はこれに属すると言っても、あえて差しつかえはあるまいと思う。つまり天然自然の法則に背《そむ》いているからだ。人間に男女がある以上、必ず配偶者を求むべきが当然の道ではないか。
 動物が子孫を継《つ》ぐべき子供のために、その全生涯を捧《ささ》げていることは蝉《せみ》の例でもよくわかる。暑い夏に鳴きつづけている蝉《
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