満《み》ちている。まず花弁《かべん》の色がわが眼を惹《ひ》きつける、花香《かこう》がわが鼻を撲《う》つ。なお子細《しさい》に注意すると、花の形でも萼《がく》でも、注意に値《あたい》せぬものはほとんどない。
 この花は、種子《たね》を生ずるために存在している器官である。もし種子を生ずる必要がなかったならば、花はまったく無用の長物《ちょうぶつ》で、植物の上には現《あらわ》れなかったであろう。そしてその花形《かけい》、花色《かしょく》、雌雄蕊《しゆうずい》の機能は種子を作る花の構《かま》えであり、花の天から受け得た役目である。ゆえに植物には花のないものはなく、もしも花がなければ、花に代わるべき器官があって生殖を司《つかさど》っている。(ただし最も下等なバクテリアのようなものは、体が分裂して繁殖《はんしょく》する。)
 植物にはなにゆえに種子が必要か、それは言わずと知れた子孫《しそん》を継《つ》ぐ根源であるからである。この根源があればこそ、植物の種属は絶《た》えることがなく地球の存する限り続くであろう。そしてこの種子を保護しているものが、果実である。
 草でも木でも最も勇敢《ゆうかん》に自分の
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