である桔梗の音読《おんどく》で、これが今日《こんにち》わが邦《くに》での通名《つうめい》となっている。昔はこれをアリノヒフキと称《とな》えたが、この名ははやくに廃《すた》れて今はいわない。また古くは桔梗《ききょう》をオカトトキといったが、これもはやく廃語《はいご》となった。このオカトトキのオカは岡で、その生《は》えている場所を示し、トトキは朝鮮語でその草を示している。このトトキの語が、今日《こんにち》なお日本の農民間に残って、ツリガネソウ一名ツリガネニンジン、すなわちいわゆる沙参《しゃじん》をそういっている。
右のオカトトキを昔はアサガオと呼んだとみえて、それが僧|昌住《しょうじゅう》の著《あらわ》したわが邦《くに》最古の辞書である『新撰字鏡《しんせんじきょう》』に載《の》っている。ゆえにこれを根拠《こんきょ》として、山上憶良《やまのうえのおくら》の詠《よ》んだ万葉歌の秋の七種《ななくさ》の中のアサガオは、桔梗《ききょう》だといわれている。今|人家《じんか》に栽培《さいばい》している蔓草《つるくさ》のアサガオは、ずっと後に牽牛子《けんぎゅうし》として中国から来たもので、秋の七種《なな
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