《しぼう》が三室になっていることを暗示している。そして花下《かか》の子房の中には、卵子《らんし》が入っている。それにもかかわらず、この水仙には絶《た》えて実を結ばないこと、かのヒガンバナ、あるいはシャガと同様である。けれども球根《きゅうこん》で繁殖《はんしょく》するから、実を結んでくれなくっても、いっこうになんらの不自由はない。そうしてみると、水仙の花はむだに咲いているから、もったいないことである。ちょうど、子を生まない女の人と同じだ。
 水仙は花に伴《ともの》うて、通常は四枚、きわめて肥《こ》えたものは八枚の葉が出る。草質《そうしつ》が厚く白緑色《はくりょくしょく》を呈《てい》しているが、毒分があるから、ニラなどのように食用にはならない。地中の球根を搗《つ》きつぶせば強力な糊《のり》となり、女の乳癌《にゅうがん》の腫《は》れたのにつければ効《き》くといわれる。
 元来《がんらい》、水仙は海辺《かいへん》地方の植物であって、山地に生《は》える草ではない。房州《ぼうしゅう》〔千葉県の南部〕、相州《そうしゅう》〔神奈川県の一部〕、その他|諸州《しょしゅう》の海辺地には、それが天然生《てんね
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