かせて書いたものであるから、まずい点もそこここにあるであろうことを恐縮している。要するに失礼な申し分ではあれど、読者諸君を草木《くさき》に対しては素人《しろうと》であると仮定し、そんな御方《おかた》になるべく植物趣味を感じてもらいたさに、わざとこんな文章、それは口でお話するようなしごく通俗な文章を書いてみたのである。もし諸君がこの文章を読んでいささかでも植物趣味を感ぜられ、且《か》つあわせて多少でも植物知識を得られたならば、筆者の私は大いに満足するところである。
 われらを取り巻いている物の中で、植物ほど人生と深い関係を持っているものは少ない。まず世界に植物すなわち草木がなかったなら、われらはけっして生きてはいけないことで、その重要さが判《わか》るではないか。われらの衣食住はその資源を植物に仰《あお》いでいるものが多いことを見ても、その訳《わけ》がうなずかれる。
 植物に取り囲まれているわれらは、このうえもない幸福である。こんな罪のない、且《か》つ美点に満ちた植物は、他の何物にも比することのできない天然《てんねん》の賜《たまもの》である。実にこれは人生の至宝《しほう》であると言っても、
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