ものである。幸《さいわ》いにも多肉質の皮が存しているために、これが賞味《しょうみ》すべき好果実として登場しているのであるが、しかしこの委曲《いきょく》を知悉《ちしつ》していた人は世間《せけん》に少ないと思う。ゆえにバナナは皮を食うといったら、みな怪訝《けげん》な顔をするのであろう。
バナナのミバショウ植物は、見たところ内地にあるバショウそっくりの形状をしている。それもそのはず、その両方が同属(Musa すなわちバショウ属)であるからだ。葉を検《けん》して見ると、バナナの方が葉質《ようしつ》がじょうぶで葉裏が白粉《はくふん》を帯《お》びたように白色《はくしょく》を呈《てい》しており、そして花穂《かすい》の苞《ほう》が暗赤色《あんせきしょく》であるから、わがバショウの葉の裏面《りめん》が緑色で、花穂《かすい》の苞《ほう》が多少|褐色《かっしょく》を帯《お》びる黄色なのとすぐ区別がつく。
バナナを食うときはだれでもまずその外皮《がいひ》を剥《は》ぎ取り、その内部の肉、それはクリーム色をした香《にお》いのよい肉、を食《しょく》する。そしてこの皮と肉とは、これは共《とも》にバナナの皮であるが
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