《つ》いで一枚の常葉《じょうよう》(単葉)が出ていることがたまに見られ、またザボンの苗《なえ》の葉柄《ようへい》に幹《みき》から芽出《めだ》つ葉にもまた三出葉が見られることがあって、つまり遠い遠い前世界の時の葉を出しているのであることは、すこぶる興味ある事実を自然が提供しているのである。
それからいま一つミカン類にとっておもしろいことは、その枝上《しじょう》にある刺針《ししん》、すなわちトゲの件である。そしてこのトゲは、元来《がんらい》はこの樹《き》を食害する獣類(それは遠い昔の)などを防禦《ぼうぎょ》するために生じたものであろうが、こんな開けた世にはそんな害獣《がいじゅう》もいないので、したがってそのトゲもまったく無用の長物《ちょうぶつ》となっている。
しかし学問上からそのトゲは何であるのかを究明《きゅうめい》するのは、すこぶる興味ある問題の一つである。従来日本のある学者は、それは葉の変形したものだと言った。またある学者は、それは枝の変形したものにほかならないと唱《とな》えた。これらの学者のいう説にはなんら確《かく》たる根拠《こんきょ》はなく、ただ外から観《み》た想像説でしかない
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