37]《かく》)を食えば、一日の間に百|遍《ぺん》も雌雄《しゆう》相通《あいつう》ずることができる効力を持っていると信ぜられている。昔からこんな伝説が右のとおり中国にあるので、日本でもこれが成分を研究してみた人があったが、なにもそんな不思議《ふしぎ》な効力はないとの結論で、たちまちその研究熱が覚《さ》めてしまって、今日《こんにち》ではだれもその淫羊※[#「くさかんむり/霍」、第3水準1−91−37]説《いんようかくせつ》を信ずる馬鹿者《ばかもの》はなくなった。
かのタデ科に属し、地下茎《ちかけい》に塊根《かいこん》のできる何首烏《かしゅう》すなわちツルドクダミも、一時はそれが性欲に利《き》くとて、やはり中国の説がもとで大騒ぎをしてみたが、結局はなんの効《こう》も見つからず、阿呆《あほ》らしいですんでしまった。
イカリソウはヘビノボラズ科に属し、右の名のほかになおクモキリソウ、カリガネソウ、カナビキソウなどの別名がある。
[#「イカリソウの図」のキャプション付きの図(fig46821_18.png)入る]
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果実
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果実
世間《せけん》ふつうには果実というといわゆるクダモノであって、リンゴ、カキ、ミカンなどの食用になる実を呼んでいるのであるが、しかし植物学上で果実と称するものは、花の後にできる実をすべて果実といい、通俗とは大いにその呼び方が異なっている。そしてそれはあえて食用になると、ならないとにかかわらず、すべてをそういっている。ゆえにシソ、エゴマの実のようなものでも果実であり、また右のリンゴ、カキなどのようなものでもむろん果実である。
花の中の子房《しぼう》が花後《かご》に成熟して実になったものは、果実そのものの本体で、すなわち正果実である。
ウメ、モモ、ケシ、ダイコン、エンドウ、ソラマメ、トウモロコシ、イネ、ムギ、ソバ、クリ、クヌギ、ならびにチャの実などがそれである。
また、果実には他の器官が子房《しぼう》と合体し、共同で一の果実をなしているものもある。すなわちリンゴ、ナシ、キュウリ、カボチャ、メロンなどがそれである。
また、他の器官が主部となって果実をなしているものもあって、そんな場合は、これを擬果《ぎか》とも偽果《ぎか》とも称《とな》える。すなわちオランダイチゴ、ヘビイチゴ、イチジク、ノイバラの実などがそれである。
果実の食用となる部分は、果実の種類によってかならずしも一様《いちよう》ではない。モモ、アンズなどは植物学上でいうところの中果皮《ちゅうかひ》の部を食用とし、リンゴ、ナシなどは実を合成せる花托部《かたくぶ》を食《しょく》しており、ミカンは果内《かない》の毛を食し、バナナは果皮《かひ》を食し、イチジクは変形せる花軸部《かじくぶ》を食用に供《きょう》している。
いろいろの果実、すなわち実を研究してみるとなかなかおもしろいもので、ふつう世人《せじん》が思っているよりほか、意外な事実を発見するものである。次に四つの果実について、おのおのその趣味ある特状を述べてみましょう。
リンゴ
リンゴの果実は、これを縦《たて》に割ったり横に切ったりして見れば、よくその内部の様子がわかるから、そうして検《けん》して見るがよい。
その中央部に五室に分かれた部分があって、その各室内には二個ずつの褐色《かっしょく》な種子《たね》が並《なら》んでいる。そしてその外側に区切りがあって、それが見られる。すなわちこの区切りを界《さかい》としてその内部が真の果実であって、この果実部はあえてだれも食わなく捨てるところである。そしてこの区切りと最外《さいがい》の外皮《がいひ》のところまでの間が人の食《しょく》する部分であるが、この部分は実は本当の果実(中心部をなせる)へ癒合《ゆごう》した付属物で、これは杯状《はいじょう》をなした花托《かたく》(すなわち花の梗《くき》の頂部《ちょうぶ》)であって、それが厚い肉部となっているのである。
これで見ると、このリンゴの実は本当の果実は食われなく、そしてただそのつきものの変形せる花托《かたく》、すなわち花梗《かこう》の末端《まったん》を食っていることになるが、しかしリンゴを食う人々は、植物学者かあるいは学校で教えられた学生かを除くのほかは、だれもその真相を知っているものはほとんどないであろう。
このリンゴは英語でいえばアップルである。今日《こんにち》の日本人はだれでもこれをリンゴといってすましているが、実をいうとこれはリンゴではなくて、すべからくそれをトウリンゴまたはオオリンゴ、あるいはセイヨウリンゴといわねばならぬものである。そして漢字で書けば苹果でありまた※[#「
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