木/示」、第4水準2−14−51]である。
 元来《がんらい》、本当のリンゴは林檎であって、これはその実の直径およそ三センチメートル余りもない小さいもので、あえて市場へは出てこなく、日本では昔その苗木《なえぎ》がわが邦《くに》へ渡って今日|信州《しんしゅう》〔長野県〕あるいは東北地方にわずかに見るばかりである。元来《がんらい》日本の原産ではなけれども、これを西洋リンゴのアップルと区別せんがために和《わ》リンゴといわれている。すなわち日本リンゴの意である。
 アップルすなわち西洋リンゴは、明治の初年にはじめて西洋から伝わりて爾後《じご》しだいに日本に拡《ひろ》まり、今日《こんにち》では東北諸州ならびに信州からそれの良果が盛《さか》んに市場に出回《でまわ》り、果実店頭を飾《かざ》るようにまでなったのである。
 アップルを学名でいえば Malus pumila var. domestica であって、前の和《わ》リンゴは Malus asiatica である。元来《がんらい》リンゴは林檎(和リンゴ)の音であるから本当のリンゴをいう場合は何もいうことはないが、今日《こんにち》のように西洋リンゴ(トウリンゴ)を単にリンゴと呼ぶのは、実は当《とう》を得たものではないことを知っていなければならない。

[#「リンゴの図」のキャプション付きの図(fig46821_19.png)入る]

     ミカン

 ミカンすなわち蜜柑は、食用果実として名高く且《か》つ最もふつうのものであるが、世人《せじん》はそのミカンの実のいずれの部分を味わっているのか知らぬ人が多いのであろう。そしてそのミカンは、その毛の中の汁《しる》を味わっている、と聞かされるとみな驚いてしまうだろうが、実際はそうであるからおもしろい。もし万一ミカンの実の中に毛が生《は》えなかったならば、ミカンは食《く》えぬ果実としてだれもそれを一顧《いっこ》もしなかったであろうが、幸《さいわ》いにも果中《かちゅう》に毛が生《は》えたばっかりに、ここに上等果実として食用果実界に君臨《くんりん》しているのである。こうなってみると毛の価《あたい》もなかなか馬鹿《ばか》にできぬもので、毛頭《もうとう》その事実に偽《いつわ》りはない。
 ミカンの属は学問上ではシトルス(Citrus)と称し、属中には多数の種類を含んでいる。日本にあるダイダイ、クネンボ、ウンシュウミカン、ナツミカン、コウジ、ユズ、ベニミカン、ヤツシロミカン、レモン、マルブシュカン、トウミカン、コナツミカン、オレンジ、サンボウカン、ザボン、キシュウミカン(コミカン)、ポンカン(元来《がんらい》台湾産、九州に作っている所がある)などみなその果実の構造は同一で、いずれも甘汁《かんじゅう》もしくは酸汁《さんじゅう》を含んでいる毛がその食用源をなしているのである。これらミカン類の貴《とうと》さも、つまるところは前述のとおりその果内《かない》の毛に帰《き》するわけだ。
 ミカン類の果実は、植物学上果実の分類からいえば漿果《しょうか》と称すべきであるが、なお精密にいえば漿果中《しょうかちゅう》の柑橘果《かんきつか》と呼ぶべきものである。
 ミカン類の果実を剥《む》いて見ると、表面の皮がまず容易にとれる。その中には俗にいうミカンの嚢《ふくろ》が輪列《りんれつ》していて、これを離《はな》せば個々に分かれる。そしてその嚢《ふくろ》の中に汁《しる》を含んだ膨大《ぼうだい》せる毛と種子とがあって、その毛はその嚢《ふくろ》の外方の壁面《へきめん》から生じており、その種子は内方の底から生じている。つまり右の毛と種子とは反対側から出て、たがいに向き合っているのである。すなわち図上|左隅《ひだりすみ》にその毛の生じ具合《ぐあい》が示され、またそれとならんでその右隅には、成熟した毛が描かれている。子房《しぼう》がまだ若いときは(左側中央の図)、その各室内にまだ毛は生じていないが、花が終わって後|子房《しぼう》が日増しに大きくなるにつれ、漸次《ざんじ》にその外方の内壁《ないへき》から毛が生じ始める。そして後には図の下方にあるミカン半切《はんき》れ図が示すように、右の毛は嚢《ふくろ》の中いっぱいに充満《じゅうまん》する。
 右のとおり、その半切れ図で表《あらわ》してあるように、果実の中は幾室《いくしつ》にも分かれていて、この果実は実《じつ》は数個の一室果実から合成せられていることを示している。すなわち一花中に数子房があって、それがたがいに分立《ぶんりつ》せずして癒着《ゆちゃく》し、ここに複成子房をなしているのである。ゆえにその嚢《ふくろ》は数個連合してはいるが、これを離せば容易に離れて個々の嚢《ふくろ》となるのである。ただその外側に当たる外皮《がいひ》が割れ目なしに密に連合し
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