である。ゆえに、この草はいつも群集して生《は》えている。それはもと一球根から二球根、三球根、しだいに多球根と分かれゆきて集っている結果である。
花が済《す》むとまもなく数条の長い緑葉《りょくよう》が出《い》で、それが冬を越《こ》し翌年の三月ごろに枯死《こし》する。そしてその秋、また地中の鱗茎《りんけい》から花茎《かけい》が出て花が咲き、毎年毎年これを繰り返している。かく花の時は葉がなく、葉の時は花がないので、それでハミズハナミズ(葉見ず花見ず)の名がある。鱗茎《りんけい》は球形《きゅうけい》で黒皮《こくひ》これを包み、中は白色で層々《そうそう》と相重《あいかさ》なっている。そしてこの層をなしている部分は、実に葉のもとが鞘《さや》を作っていて、その部には澱粉《でんぷん》を貯《たくわ》え自体の養分となしていること、ちょうど水仙《すいせん》の球根、ラッキョウの球根などと同様である。そしてそこは広い筒《つつ》をなして、たがいに重なっているのである。
近来《きんらい》は澱粉《でんぷん》製造の会社が設立せられ、この球根を集め砕《くだ》きそれを製しているが、白色無毒な良好澱粉が製出せられ、食用に供《きょう》せられる。元来《がんらい》、この球根にはリコリンという毒分を含んでいるが、しかしその球根を搗《つ》き砕《くだ》き、水に晒《さら》して毒分を流し去れば、食用にすることができるから、この方面からいえば、有用植物の一に数《かぞ》うることができるわけだ。
この草の生の花茎《かけい》を口で噛《か》んでみると、実にいやな味のするもので、ただちにそれが毒草《どくそう》であることが知れる。女の子供などは往々《おうおう》その茎《くき》を交互《こうご》に短く折《お》り、皮で連《つら》なったまま珠数《じゅず》のようになし、もてあそんでいることがある。
『万葉集』にイチシという植物がある。私はこれをマンジュシャゲだと確信しているが、これは今までだれも説破《せつは》したことのない私の新説である。そしてその歌というのは、
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路《みち》の辺《べ》の壱師《いちし》の花の灼然《いちしろ》く、人皆知りぬ我が恋妻を
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である。右の歌の灼然《いちしろ》の語は、このマンジュシャゲの燃ゆるがごとき赤い花に対し、実によい形容である。しかしこのイチシという方言は、今日《こんにち》あえて見つからぬところから推《お》してみると、これはほんの狭《せま》い一地方に行われた名で、今ははやく廃《すた》れたものであろう。
このマンジュシャゲ、すなわちヒガンバナ、すなわち石蒜《せきさん》は日本と中国との原産で、その他の国にはない。外国人はたいへんに球根植物を好くので、ずっと以前にこのマンジュシャゲの球根が、多数に海外へ輸出せられたことがあった。
[#「ヒガンバナの図」のキャプション付きの図(fig46821_14.png)入る]
オキナグサ
春に山地に行くと、往々《おうおう》オキナグサという、ちょっと注意を惹《ひ》く草に出逢《であ》う。全体に白毛《はくもう》を被《かぶ》っていて白く見え、他の草とはその外観が異っているので、おもしろく且《か》つ珍しく感ずる。葉は分裂《ぶんれつ》しており、株《かぶ》から花茎《かけい》が立ち十数センチメートルの高さで花を着《つ》けている。花は点頭《てんとう》して横向きになっており、日光が当たると能《よ》く開く。花の外面に多くの白毛が生じており、六|片《ぺん》の花片《かへん》(実は萼片《がくへん》であって花弁はなく、萼片が花弁状をなしている)の内面は色が暗紫赤色《あんしせきしょく》を呈《てい》している。花内《かない》に多雄蕊《たゆうずい》と多雌蕊《たしずい》とがある。わが邦《くに》の学者はこの草を漢名の白頭翁《はくとうおう》だとしていたが、それはもとより誤りであった。この白頭翁《はくとうおう》はオキナグサに酷似《こくじ》した別の草で、それは中国、朝鮮に産し、まったくわが日本には見ない。ゆえに右日本のオキナグサを白頭翁《はくとうおう》に充《あ》てるのは悪い。
さてこの草をなぜオキナグサ、すなわち翁草というかというと、それはその花が済《す》んで実になると、それが茎頂《けいちょう》に集合し白く蓬々《ほうほう》としていて、あたかも翁《おきな》の白頭《はくとう》に似ているから、それでオキナグサとそう呼ぶのである。この蓬々《ほうほう》となっているのは、その実の頂《いただき》にある長い花柱《かちゅう》に白毛《はくもう》が生じているからである。
この草には右のオキナグサのほかになおたくさんな各地の方言があって、シャグマグサ、オチゴバナ、ネコグサ、ダンジョウドノ、ハグマ、キツネコンコン、ジイガヒゲ、ゼガイソウもそ
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