十種の薬の効能《こうのう》があるから、それで十薬という、といわれているのはよい加減《かげん》にこしらえた名で、ジュウヤクとは実は※[#「くさかんむり/(楫のつくり+戈)」、第3水準1−91−28]薬《じゅうやく》から来た名である。
 この草は春に苗《なえ》を生ずるが、それは地中に蔓延《まんえん》せる細長い地下茎《ちかけい》から出て来る。茎《くき》は直立して三〇センチメートル内外となり、心臓状円形で葉裏帯紫色の厚い柔《やわ》らかな全辺葉《ぜんぺんよう》を互生《ごせい》し、葉柄本《ようへいほん》に托葉《たくよう》を具《そな》えている。茎《くき》の梢《こずえ》に直径一〜二センチメートルの白花を開くが、その花は四|花弁《かべん》があるように見えるけれど、これは花弁を粧《よそお》うている葉の変形物なる苞《ほう》である。そしてその花の中央から一本の花軸《かじく》が立って、それに多数の花を着《つ》けているが、しかしその花はみな裸で萼《がく》もなければ花弁もなく、ただ黄色葯《おうしょくやく》ある三|雄蕊《ゆうずい》と一|雌蕊《しずい》とのみを持っているにすぎなく、まことに簡単至極《かんたんしごく》な花ではあるが、これに引き換《か》えその白色四|片《へん》の苞《ほう》はたいせつな役目を勤《つと》めている。
 すなわち目に着《つ》くその白い色を看板《かんばん》にして、昆虫を招いているのである。昆虫はこの白看板《しろかんばん》に誘《さそ》われて遠近から花に来《きた》り、花中《かちゅう》に立っている花軸《かじく》の花を媒助《ばいじょ》してくれるのである。けれども昆虫はただでは来《こ》なく、利益交換《りえきこうかん》の蜜《みつ》が花中にあるので、それでやって来《く》るのである。この草が群をなして密生《みっせい》している所では、草の表面にその白花が緑色の葉を背景に点々とたくさんに咲いていて、すこぶる趣《おもむき》がある。
 このドクダミははなはだ抜き去り難《がた》く、したがって根絶《こんぜつ》せしめることはなかなか容易でなく、抜いても抜いても後《あと》から生《は》え出るのである。それもそのはず、地中に細長い白色地下茎《はくしょくちかけい》が縦横《じゅうおう》に通っていて、苗《なえ》を抜く時にそれが切れ、依然《いぜん》として地中に残り、その残りからまた苗《なえ》が生《は》えるからである。この地下
前へ 次へ
全60ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング