. の学名もあるが、この種名の Moutan は牡丹の意である。そしてその属名の Paeonia は、Paeon という古代の医者の姓名に基《もと》づいたものである。牡丹根皮は薬用となるので、それでこの医者の名をつけた次第《しだい》であろう。
 日本では牡丹の音ボタンが、今日の通名となっている。
 古歌にはハツカグサ、ナトリグサの名があり、古名にはフカミグサの名がある。右のハツカグサは二十日《はつか》草で、これは昔、藤原|忠通《ただみち》の歌の、

[#ここから2字下げ]
咲きしより散り果つるまで見しほどに
  花のもとにて廿日《はつか》へにけり
[#ここで字下げ終わり]

 に基づいたもので、つまり牡丹の花の盛りが久しいことを称《たた》えたものだ。
 一つの花が咲き、次の蕾《つぼみ》が咲き、株上のいくつかの花が残らず咲き尽《つ》くすまで見て、二十日《はつか》もかかったというのであろう。いくら牡丹でも、一|輪《りん》の花が二十日《はつか》間も萎《しぼ》まず咲いているわけはない。
 中国では、牡丹《ぼたん》が百花《ひゃっか》のうちで第一だから、これを花王《かおう》と唱《とな》えた。さらに富貴花《ふうきか》、天香国色《てんこうこくしょく》、花神《かしん》などの名が呼ばれている。宋《そう》の欧陽修《おうようしゅう》の『洛陽牡丹《らくようぼたん》の記』は有名なものである。
 牡丹は、樹《き》の高さ通常は九〇〜一二〇センチメートルばかりに成長し、まばらに分枝《ぶんし》する。春早く芽が出《い》で、葉は互生《ごせい》して葉柄《ようへい》があり、二回、三回分裂して複葉《ふくよう》の姿をなしている。五月、枝端《したん》に大なる花を開き、花径《かけい》およそ二〇センチメートルばかりもある。花下《かか》にある五|萼片《がくへん》は宿存《しゅくそん》して花後《かご》に残り、八|片《へん》ないし多片の花弁《かべん》ははじめ内《うち》へ抱《かか》え込み、まもなく開き、香《かお》りを放って花後に散落《さんらく》する。花中《かちゅう》に多雄蕊《たゆうずい》と、細毛《さいもう》ある二ないし五個の子房《しぼう》とがあり、子房は花後に乾《かわ》いた果実となり、のち裂《さ》けて大きな種子が露《あらわ》れる。
 多くの年数を経《へ》た古い牡丹にあっては、高さが一八〇センチメートル以上にも達して幹《みき》が太
前へ 次へ
全60ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング