れがためにたくさんな種子がよく稔《みの》ることになっている。
ヒマワリの花は虫媒花《ちゅうばいか》である。昆虫が花の蜜《みつ》を吸《す》いに来て、花盤面《かばんめん》にあるたくさんな小花の上を這《は》い回ると、花が一度に受精《じゅせい》する巧妙《こうみょう》な仕組みになっている。これは他のキク科植物も同様である。
右に分業といったが、すなわち、花盤《かばん》上にある小花はもっぱら生殖を司《つかさど》り、周辺にある舌状《ぜつじょう》小花は、昆虫に対する目印《めじるし》の看板《かんばん》と併《あわ》せて生殖を担当《たんとう》している。こんな分業などが能《よ》く行われ、且《か》つ受精が巧妙《こうみょう》に行《ゆ》きわたり、また種子の分布《ぶんぷ》も巧《たく》みなので、キク科植物は地球上で最も進歩発達した花である、と評価せられている。そしてキク科植物は、他のいずれの科のものよりも勝《まさ》ってたくさんな種類を含み、はなはだ優勢である。
ヒマワリの姉妹品《しまいひん》にキクイモがあって同属に列する。その学名を Helianthus tuberosus L[#「L」は斜体].(この種名は塊茎《かいけい》を有する意)と称し、俗に Girasole または Jerusalem artichoke と呼び、やはりアメリカ合衆国ならびにカナダがその原産地である。地中にジャガイモ(馬鈴薯《ばれいしょ》というは大間違い)のような塊茎《かいけい》が生じて食用になるのだが、それにまったく澱粉《でんぷん》はなく、ただイヌリン(ゴボウと同様)があるのみである。味は淡白《たんぱく》であって美味《うま》くないから、だれも食料として歓迎《かんげい》しない。しかれども方法をもってすれば、砂糖《さとう》が製せられるから捨てたものではない。
[#「ヒマワリの図」のキャプション付きの図(fig46821_11.png)入る]
ユリ
中国に百合という一種のユリがあって、白い花が咲く。これは中国の特産であって、日本には見ることがない。そして百合は、独《ひと》りこの白花ユリ(Lilium sp. 種名未詳)の専有する特名である。
百合とは、その地下の球根(植物学上でいえば鱗茎《りんけい》)に多くの鱗片《りんぺん》があって層々《そうそう》と重なっているから、それでそう百合というとのことである。
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