つにキク科の中でこんな大きな頭状花を咲かせるものはほかにはない。
ヒマワリすなわち向日葵の花が、不動の姿勢を保って、日について回らぬことを確信をもって提言し、世に発表したのは私であった。すなわちそれは昭和七年(1932)一月二十五日発行の『植物研究雑誌』第八巻第一号の誌上で、「ひまはり日ニ回ラズ」の題でこれを詳説しておいた。そしてこの文は『牧野植物学全集』第二巻(昭和十年(1935)三月二十五日、東京、誠文堂発行)の中に転載せられている。
ヒマワリは昔に丈菊といった。すなわちそれが寛文六年(1666)に発行せられた中村|※[#「りっしんべん+昜」、第4水準2−12−60]斎《てきさい》の『訓蒙図彙《きんもうずい》』に出で、「丈菊 俗云てんがいばな文菊花一名迎陽花」と図の右傍に書いてある。
宝永六年(1709)に出版になった貝原益軒《かいばらえきけん》の『大和本草《やまとほんぞう》』には、向日葵をヒュウガアオイと書いてある。そして「花ヨカラズ最下品ナリ只日ニツキテマハルヲ賞スルノミ」と出ている。これによると、益軒もまたヒマワリの花が日にしたがって回ると誤認していたことが知れる。そしてヒュウガアオイの名は向日葵の文字によって多分益軒がつくったものではなかろうかと思う。
ヒマワリの実、すなわち痩果は一花頭に無数あって羅列し、かつ形が太いからその中の種子を食用にするに都合がよい。また油も搾られる。鍋に油を布いてこの痩果を炒り、その表面へ薄塩汁を引いて食すれば簡単に美味に食べられる。
シュロと椶櫚
椶櫚はまた棕櫚と書きまた※[#「木+并」、第4水準2−14−57]櫚とも書いてある。すなわち温帯地に生ずるヤシ科すなわち椰樹科の一種で樹に雄木と雌木とがある。陳※[#「温」の「皿」に代えて「俣のつくり−口」、第4水準2−78−72]子《ちんこうし》の『秘伝花鏡《ひでんかきょう》』には「木高廿数丈、直ニシテ旁枝ナク、葉ハ車輪ノ如ク、木ノ杪ニ叢生ス、粽皮アリテ木上ヲ包ム、二旬ニシテ一タビ剥ゲバ、転ジテ復タ上ニ生ズ、三月ノ間木端ニ数黄苞ヲ発ス、苞中ノ細子ハ列ヲ成ス、即チ花ナリ、穂亦黄白色、実ヲ結ブ大サ豆ノ如クニシテ堅シ、生ハ黄ニシテ熟スレバ黒シ、一タビ地ニ堕ル毎ニ、即チ小樹ヲ生ズ」と書いてある。
日本のシュロは古くはスロノキといったことが深江輔仁《ふかえのすけひと》の『本草和名《ほんぞうわみょう》』に出で須呂乃岐と書いてある。これは日本の特産ではあるが今日ではその純野生は見られないが、しかし昔はあったものと思われる。そしてその繁殖の中心地はまさに九州であったであろうと信ずべき理由がある。
日本シュロすなわちいわゆる和ジュロの学名は Trachycarpus excelsa Wendl[#「Wendl」は斜体].(=Chamaeropus excelsa[#「Chamaeropus excelsa」は斜体] Thunb.)であるが、中国の椶櫚の学名は Trachycarpus Fortunei Wendl[#「Wendl」は斜体].(=Chamaeropus Fortunei[#「Chamaeropus Fortunei」は斜体] Hook. fil.)である。私は先きにこの二つを研究した結果、これを同一種すなわち同スペシーズであると鑑定し、この中国の椶櫚を日本シュロの一変種と認め、その学名を改訂しこれを Trachycarpus excelsa Wendl[#「Wendl」は斜体]. var. Fortunei Makino[#「Makino」は斜体] として発表したが、これは北米 L. H. Bailey 氏の支持を得て、同氏の Manual of Cultivated Plants(1924)にもそう出ている。そしてこれがいわゆるトウジュロ(唐椶櫚の意)であって、今日本の庭園でも見られるが、それは前に中国から渡来したものである。そして中国には日本のシュロはない。
椶櫚は元来中国産なる右のトウジュロそのものの名であるから、厳格にいえばこれを日本のシュロの名として用いるのはもとより正しくない。そして日本のシュロには漢名はない訳だ。日本のシュロの名はもとは椶櫚の字面から出たものであるが、無論椶櫚そのものではない。
日本のシュロは和ジュロと称え、上に書いたようにこれを唐ジュロと区別する。今これをトウジュロに比べればワジュロは稈の丈け高く、葉は大にしてそのよく成長したものは、その葉面の長さ六七センチメートル、横幅一〇一センチメートル、裂片の広さ四四ミリメートルに達することがある。そしてその裂片は多少ふるくなったものは途中から下方に折れて垂れる特徴があるが、トウジュロの方は一体にワジュロよりは小形で、葉の裂片はいつもツンとしていて
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