植物一日一題
牧野富太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小野蘭山《おのらんざん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|種《スペシーズ》の特名

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「くさかんむり/開」、目次1−6]

 [#…]:返り点
 (例)従[#レ]艸従[#レ]開て製れる

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)一月[#(ニシテ)]而熟[#(ス)]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)恐《こ》は/″\と食べて見る
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔Bo_shi−guri〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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植物一日一題●目次
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馬鈴薯とジャガイモ
百合とユリ
キャベツと甘藍
藤とフジ
ヤマユリ
アケビと※[#「くさかんむり/開」、目次1−6]
アカザとシロザ
キツネノヘダマ
紀州高野山の蛇柳
無花果の果
イチョウの精虫
茶樹の花序
二十四歳のシーボルト画像
サルオガセ
毒麦
馬糞蕈
昔の草餅、今の草餅
ハナタデ
イヌタデ
ボントクタデ
婆羅門参
茶の銘玉露の由来
御会式桜
贋の菩提樹
小野蘭山先生の髑髏
秋海棠
不許葷酒入山門
日本で最大の南天材
屋根の棟の一八
ワルナスビ
カナメゾツネ
茱萸とグミ
アサガオと桔梗
ヒルガオとコヒルガオ
ハマユウの語原
バショウと芭蕉
オトヒメカラカサ
西瓜――徳川時代から明治初年へかけて
ギョリュウ
万葉歌のイチシ
万葉歌のツチハリ
万葉歌のナワノリ
蓬とヨモギ
於多福グルミ
栗とクリ
アスナロノヒジキ
キノコの川村博士逝く
日本の植物名の呼び方・書き方
オトコラン
中国の椿の字、日本の椿の字
ノイバラの実、営実
マコモの中でもアヤメ咲く
マクワウリの記
新称天蓋瓜
センジュガンピの語原
片葉のアシ
高野の万年草
コンブとワカメ
『草木図説』のサワアザミとマアザミ
ムクゲとアサガオ
※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]冬とフキ
薯蕷とヤマノイモ
ニギリタケ
パンヤ
黄櫨、櫨、ハゼノキ
ワスレグサと甘草
根笹
菖蒲とセキショウ
海藻ミルの食べ方
楓とモミジ
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]蘭と※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]
製紙用ガンピ二種
インゲンマメ
ナガイモとヤマノイモ
ヒマワリ
シュロと椶櫚
蜜柑の毛、バナナの皮
梨、苹果、胡瓜、西瓜等の子房
グミの実
三波丁子
サネカズラ
桜桃
種子から生えた孟宗竹
孟宗竹の中国名
紫陽花とアジサイ、燕子花とカキツバタ
楡とニレ
シソのタネ、エゴマのタネ
麝香草の香い
狐ノ剃刀
ハマカンゾウ
イタヤカエデ
三度グリ、シバグリ、カチグリ、ハコグリ
朝鮮のワングルとカンエンガヤツリ
無憂花
アオツヅラフジ
ゴンズイ
辛夷とコブシ、木蘭とモクレン
万年芝
オリーブとホルトガル
冬の美観ユズリハ
 序文に代う
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植物一日一題
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  馬鈴薯とジャガイモ

 ジャガタライモ、すなわちジャガイモ(Solanum tuberosum L[#「L」は斜体].)を馬鈴薯ではないと明瞭に理解している人は極めて小数で、大抵の人、否な一流の学者でさえも馬鈴薯をジャガイモだと思っているのが普通であるから、この馬鈴薯の文字が都鄙を通じて氾濫している。が、しかしジャガイモに馬鈴薯の文字を用うるのは大変な間違いで、ジャガイモは断じて馬鈴薯そのものではないことは最も明白かつ確乎たる事実である。こんな間違った名を日常平気で使っているのはおろかな話で、これこそ日本文化の恥辱でなくてなんであろう。
 昔といっても文化五年(1808)の徳川時代に小野蘭山《おのらんざん》という本草学者がいて、ジャガタライモを馬鈴薯であるといいはじめてから以来、今日にいたるまでほとんど誰もこれを否定する者がなく、ジャガタライモは馬鈴薯、馬鈴薯はジャガタライモだとしてこれを口にし、また書物や雑誌などに書き、これをそう肯定しているのが常識となっているが、それは大きな間違いであって、馬鈴薯はけっしてジャガタライモではないぞと今日大声で疾呼し喝破したのは私であったが、しかし
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