kino」は斜体])『日本産物志』美濃部より模写」のキャプション付きの図(fig46820_24.png)入る]
新称天蓋瓜
昭和二十一年八月十八日友人石井勇義君来訪、一の珍瓜を恵まれた。その瓜は円いものを横に半分に截った形で、まことに座りがよく、つまり瓜の先きの半分がなくその底面が広く浅くなってその縁が低く土堤状を呈して高まっており、底の中央に大きな円形の花※[#「足へん+付」、第3水準1−92−35]の痕があって浅く擂鉢状をなしている。瓜の形は長さより横幅が広く、底の縁は低い十鈍耳をなしている。瓜の色は鮮かな黄色で大小不斉な緑色の斑点が疎らに散布せられており、瓜の膚は固くかつ極めて滑沢である。そして瓜の質はかなり実しておって果実は硬く、むしろ粉質様でその味は甘くなく、種子ははなはだ小形である。
この瓜は俗に Yellow Custard Marrow と呼ぶものでもとより食用にはならなく、畢竟お飾り瓜で観て楽しむものである。そしてこれは多分 Cucurbita Pepo L[#「L」は斜体]. 種中の一変種ではないかと思われる。しかしこの最も模範的のものは、冠の縁の分耳がもっと反りくりかえっている。
この瓜の茎は蔓をなさずに叢生してる。葉は割合に大形で深く分裂しその色は鮮緑である。
センジュガンピの語原
ナデシコ科のセンノウ属に深山生宿根草本なるセンジュガンピと呼ぶものがある。草全体が緑色で柔かく、茎は痩せ長く高さおよそ一尺ないし一尺半ばかりもあって直立し、葉は披針形で対生し、梢に疎なる聚繖《しゅうさん》的分枝をなして、欠刻ある五弁の石竹咲白花を着け、花中に十雄蕋と五花柱ある一子房とを具えている。その学名を Lychnis stellarioides Maxim[#「Maxim」は斜体]. と称する。その草質がハコベ属すなわち Stellaria に類しているので、それで「ハコベ属ノ植物ノ様ナ」という意味の種名がつけられたのであるがじつはガンピ属である。
私は鈍臭くてこれまでこれをセンジュガンピというそのセンジュの意味が解せられなかった。ゆえに私の『牧野日本植物図鑑』にも「和名ノせんじゅがんぴハ其意不明ナリ」と書いてある。
昭和二十一年八月十九日に来訪せられた伊藤|隼《はやし》君から、いろいろ話の中で右のセンジュガンピの名の由来をきいてたちまち我が蒙の扉が啓らきくれ、あたかも珠を沙中に拾ったように喜んだ、同君の語るところによれば、それが享保十三年(1728)二月出版、鷹橋義武《たかはしよしたけ》(日光山御幸町の人で治郎左衛門と称する)の『日光山名跡誌《にっこうさんめいせきし》』に日光物としての条下に千手雁皮《せんじゅがんぴ》が挙げられており[この書私も所蔵しているが私のは明和元年甲申仲秋改版のものである]天保八年(1837)に出版になった植田孟縉《うえだもうじん》の『日光山志《にっこうさんし》』にも出ているとのことであった。私はこれまで折りにふれてはこの『日光山志』を繙くことがあったのだが、ただ拾い読みをするばかりの罰でついにこの草に関する記事を見落してしまっていた。そこで早速に同書を閲覧してみたらその巻之四に「千手原《せんじゅがはら》 是は千手崎《せんじゅがさき》より続き赤沼原《あかぬまがはら》[牧野いう、今はアカヌマガワラというのだが、往時はかくアカヌガワラと呼んでいたのか]の南西によれり広さ凡一里半余も有ける由茲は徃反する処にあらねば知れるものすくなし千手《せんじゅ》がぴんと称する草花の名産を生ず」と出ている。すなわちセンジュガンピの名は日光千手崎に由来していることを偶然に伊藤君のお蔭で知ることが出来たわけで、私は偏えに同君に感謝している次第である。しかしこの和名をなんという人が初めてつけたか、それがなお私には不明である。
[#ここから3字下げ]
右の千手崎《せんじゅがさき》は延暦三年四月に勝道上人《しょうどうじょうにん》が湖上[中禅寺湖の]で黄金の千光眼《せんこうがん》の影向《ようごう》を拝し玉ひしゆゑ爰に千手大士を創建《そうこん》し玉ひ補陀楽山千手院《ふだらくさんしんじゅいん》と名付玉ふたといふことである。
[#ここで字下げ終わり]
前述拙著『牧野日本植物図鑑』せんじがんぴの文末「せんじゅハ其意味不明ナリ」を取り消し、今これを「野州日光山ノ中禅寺湖畔ナル千手崎ニ産スルヨリ云ヘリ」と訂正する。
片葉のアシ
世に片葉《カタハ》ノ葦《ヨシ》と呼ばれているアシがあって、この名は昔からなかなか有名なものであり、いろいろの書物にもよく書いてあって、世人はこれを一種特別なアシ(すなわちヨシ)だと思っている。しかしそれは果たして特別な一種のアシであろうか。今私はこれを判決してこのいわゆ
前へ
次へ
全91ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング