る出島《でじま》は直ぐ潮来町の真向いに見える小さい州の島で、蘆《よし》や真菰が生えていた。

[#「今日のアヤメ、昔のハナアヤメ(陸地に生えていて水にはない)」のキャプション付きの図(fig46820_22.png)入る]
[#「今日のショウブ、昔のアヤメ(水に生えていて陸地にはない)」のキャプション付きの図(fig46820_23.png)入る]

  マクワウリの記

 マクワウリは真桑瓜と書く。この真桑瓜は美濃本巣郡真桑村の名産で、昔からその名が高く、それでこの瓜をマクワウリと呼ぶようになって今日に及んでいる。またこの瓜は無論諸国につくられるので多少品変わりのものも出来て、中に谷川ウリ、ボンデンウリ(タマゴウリ)、田村ウリ、ヒメウリ、ネズミウリ、アミメマクワ(新称、瓜長楕円形緑色の皮に密に網目がある)などがある。またギンマクワウリすなわちギンマクワというものもあれば、またキンマクワウリと呼ぶものもある。
 この時分すなわち徳川時代から明治初年へかけた頃における普通常品のマクワウリはここに掲げた図にあるように枕形をした楕円形のもので、長さ四寸ないし六、七寸内外、径三寸ばかりもあり、初めは緑色であるが熟すると黄色を帯び皮は厚かった。昔は単にウリと称えまたホソジともいった。またアマウリともアジウリとも呼んだ。また土佐ではマウリといっていたが、それはマクワウリの略せられたものである。そしてマクワウリの学名は Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. var. Makuwa Makino[#「Makino」は斜体] である。
 前に書いた古名のホソチは蔕落《ほぞおち》の意で、このマクワウリは満熟すると蔕を離れ自然に落ちるからいうとのことである。マクワウリ、アマウリ、アジウリなどは無論右ホソチの古名よりは後ちの名称である。
 マクワウリの漢名は甜瓜《カンカ》である。すなわちこれはその味が特に他の瓜より甘いからである。甜は甘いことである。ゆえにまた甘瓜の一名がある。『本草綱目』に「瓜ノ類同ジカラズ、其用ニ二アリ、果ニ供スル者ヲ果瓜ト為ス、甜瓜、西瓜是レナリ、菜ニ供スル者ヲ菜瓜ト為ス、胡瓜、越瓜是レナリ」(漢文)と書いてある。瓜は植物学上果実の分類では漿果(Berry)であるが、しかしそれは下位子房からなった漿果で、その中身はもちろん子房からのものであるが、その周りの肉は主として花托からのものである。そしてスイカ、マクワウリは子房からの中身を食し、ボウブラ、カボチャ、シロウリ、ツケウリは主に花托からなった部分を食し、キュウリは通常その両部分を食している。
 シロウリ(越瓜)、ツケウリはみなマクワウリの変種である。これらは親に似ず甜くないから、菜果の方へ回されている。ここに面白いことはこのシロウリの学名を初め Cucumis Conomon Thunb[#「Thunb」は斜体]. といった。この種名の Conomon すなわちコノモンは香ノ物であるが、これは命名者ツューンベリが奈良漬けを香ノ物と思ってそう書いたものだ。今この学名は Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. var. Conomon Makino[#「Makino」は斜体] と改称せられている。そしてこのシロウリは俗に Oriental Pickling Melon と呼ばれる。
 ナシウリ(すなわち梨瓜の意)というものがある。これもマクワウリの変種で Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. var. albidus Makino[#「Makino」は斜体] の学名を有する。また市場に出ているいわゆるメロンもまた同じく Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. の変種である。その果皮すなわち膚に網の眼のあるものを網メロン、または網ノ眼メロン、または肉豆※[#「くさかんむり/「寇」の「攴」に代えて「攵」」、第3水準1−91−20]《ニクズク》メロンと称し、その学名は Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. var. reticulatus Naud[#「Naud」は斜体]. で、俗に Netted Melon あるいは Nutmeg Melon と呼ばれる。俗に単にメロンといえばじつは Cucumis Melon L[#「L」は斜体]. に属するもろもろの瓜の総称でマクワウリ、シロウリ、ツケウリ、ヒメウリ、タマゴウリ、シナウリ、キンウリなどみなメロンである。
「駒の渡りの瓜作り、瓜を人にとられじと、守る夜あまたになりぬれば、瓜を枕につい寝たり」という今様歌がある、瓜を枕に野天の瓜畑で寝た風流はまことに羨ましい。

[#「マクワウリ 甜瓜(Cucumis Melo L[#「L」は斜体]. var. Makuwa Makino[#「Ma
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