Nグルミの学名も従って Juglans mandshurica Maxim[#「Maxim」は斜体]. var. Sieboldiana(Maxim[#「Maxim」は斜体].)Makino[#「Makino」は斜体] forma cordiformis(Maxim[#「Maxim」は斜体].)Makino[#「Makino」は斜体] と改めなければならんことは必至の勢いである。すなわちマンシュウグルミからクルミすなわちオニグルミが出で、オニグルミからヒメグルミすなわちオタフクグルミが出たのである。
 小野蘭山《おのらんざん》の『本草綱目啓蒙《ほんぞうこうもくけいもう》』に「真ノ胡桃《クルミ》ハ韓種ニシテ世ニ少シ葉オニグルミヨリ長大ニシテ核モ亦大ナリ一寸余ニシテ皺多シ故ニ仁モ大ニシテ岐多シ」とあるものは恐らくマンシュウグルミを指していると思うが、しかしこれを真の胡桃であるといっているのは誤りで、胡桃の本物はチョウセングルミそのものでなければならなく、蘭山はそれを間違えているのである。
 また、右『啓蒙』に「一種カラスグルミハ越後ノ産ナリ核自ラヒラキテ烏ノ口ヲ開クガ如シ故ニ名ヅク」とあるものは珍しいクルミである。私は越後の御方に対して、これを世に著わされんことを学問のために希望する。また同書に「一種奥州会津大塩村ニ権六グルミト云アリ核小ニシテ圧口※[#「木+奈」、第4水準2−15−9]《ヲジメ》子トナスベシ是穴沢権六ノ園中ノ産ナル故ニ名ヅクト云甲州ニモコノ種アリ」と書いてある。私の手許にこの会津産の権六グルミが二顆あって、かつて『植物研究雑誌』ならびに『実際園芸』へ写真入りで書いておいた。そしてその学名を Juglans Sieboldiana Maxim[#「Maxim」は斜体]. var. Gonroku Makino[#「Makino」は斜体] として発表しておいたけれど、これもまた Juglans mandshurica Maxim[#「Maxim」は斜体]. var. Sieboldiana(Maxim[#「Maxim」は斜体].)Makino[#「Makino」は斜体] forma Gonroku (Makino[#「Makino」は斜体])Makino[#「Makino」は斜体] としておかねばならないだろう。

  栗とクリ

「栗は日本になくクリは中国にない」。こう書くと誰でも怪訝な顔して眼をクリクリさせ、クリはどこにもあるじゃないかという。その通りクリは日本のどこにもあるが、しかし栗は日本のどこにもない。けれども漢和字典のようなものを始めとして、いろいろの書物にみな栗をクリとして書いてあるではないかと言い張るだろう。
 ところが元来栗というのは中国産のもので、今それを学名でいえば Castanea mollissima Blume[#「Blume」は斜体] であり、西洋での俗名は Chinese Chestnut であって、あの町で売っているいわゆる甘栗がすなわちそれである。この栗は少しは今日本に植えられているようだが、しかしまだ日本でなった実が市場に出ることはなく、そして出るほど多量な実は今日日本では稔らない。それは畢竟その樹を大量に植えないからである。しかしこの栗は通常日本ではなかなかに実の着きが悪いといわれる。
 私の庭にこの支那栗の樹が一、二本ばかり成長を続けている。その一本へ今年初めて花が咲いたが、ついに実がならずにすんだ。その樹の本の方は直径は一方のものは五寸、一方のものは六寸五分あって、この太い方へ花が着いた。この支那栗はその幹の様子、葉の様子も無論大体は似ているが、日本のクリとは異なって嫩い幹は滑かであり、葉の広いものはその幅およそ三寸五分もあり、初めは裏面も緑色だが、後にはそれが白色を呈する。つまり非常に細かい白毛が密布するのである。この私の庭の木は前年市中で生の甘栗を買い来って播種したものである。今日でも大きく成長を続けてはいるが、依然として一向に実が生らない。
 土佐に傍士栗《ボウシグリ》(私はこれを特にボウシアマクリと称える、何となれば別にボウシグリという名があるからだ)というのがつくられている。傍士駒市という人がセレクトした品種で実が大きい、すなわち支那栗の優品で、私はこの学名を Castanea mollissima Blume var. Booshiana Makino, var. nov. (Bur short−padicellate, large, subcompressed−globose, densely prickled, about 9 cm. across; involucre 4−valved, thick, pale−tomentose within; pric
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