あったら、その人の考えは浅薄な想像の説であるように私には感ぜられる。
 このオニフスベは嫩いとき食用になる。今から二八二年前の正徳五年(1715)に発行の『倭漢三才図会《わかんさんさいずえ》』に「薄皮アリテ灰白色肉白ク頗ル麦蕈《ショウロ》ニ似タリ煮テ食ウニ味淡甘ナリ」と書かれて、この時代既にこんな菌を食することを知っていたのは面白い事実である。この異菌の食われることは西洋での姉妹種 Lasiosphaera Fenzlii Keichardt[#「Keichardt」は斜体] と同様である。それが無論無毒であって食ってもいっこうに差し支えないことが先年理学士石川光春君の試食によって証明せられ、同君は当時これをバターで※[#「火+喋のつくり」、第3水準1−87−56]めて賞味したことを親しく私に話された。
 オニフスベは前にも書いたように最も古くから知られた名である。今|小野蘭山《おのらんざん》の『本草綱目啓蒙《ほんぞうこうもくけいもう》』によれば、次のようにたくさんの名が列挙せられてある。

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オニフスベ(古名)○ヤブダマ○ヤブタマゴ○イシワタ○イシノワタ(予州)○ウマノクソダケ○ウマノホコリダケ○ホコリダチ(『大和本草』)○ホコリダケ○ケムダシ○ケムリタケ○ミヽツブレ○ミヽツブシ(讃州)○ツンボダケ○キツネノハイブクロ(若州)○メツブシ○キツネノチャブクロ(和州)○チトメ○キツネノヒキチャ(勢州)○キツネビ(南部)○キツネノハイダハラ(越前)○カザブクロ(奥州)○ホウホウダケ(備前)○カハソノヘ(江州)○カゼノコ(江州)○ヂホコリ(佐州)(以上)、ほかにケムリタケ、ヤマダマ、キツネノヘダマ、テングノヘダマ、ボウレイシがある。
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 なおこの他に右に漏れた方言がいずれかの国にあろうと思う。もしかあったら何卒御知らせを願いたい。
 オニフスベの漢名は馬勃《バボツ》である。よく牛溲《ギュウソウ》、馬勃、敗鼓の皮といわれ、こんなものでも薬になるかと評せられたものだ。これはまだよい方だが、中国では病人の衣、敗れ傘の骨、首縊りの縄、死人の寝床、厠のチウ木、小便|桶《タゴ》の古板、頭の雲脂《フケ》、耳糞、歯屎《ハクソ》、唾液、人糞、小便、月経、陰毛、精液なども薬になると書かれているが、それでもさすが夢は薬になるとは書いてない。
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