かきつばたなどの色よき物を衣《キヌ》に摺り着《ツケ》てあやをなせるなり 其|摺着《スリツクル》をまたかきつくともいひて是も巻七に 真鳥住卯手《マトリスムウナテ》の神社《モリ》の菅《スガ》の実《ミ》を衣《キヌ》に書付令服児欲得《カキツケキセムコモガモ》とあれば かきつばたは書付花《カキツバナ》也([#ここから割り注]はなとはたと通ふは上にいふがごとし[#ここで割り注終わり]) 着《ツク》をつとのみいふも古語也 つきつくつけなどいふき[#「き」に傍点]もく[#「く」に傍点]もけ[#「け」に傍点]も用言に添る言にて元来つの一言ぞ着《ツキ》の意なりける 船のつく所を津といふにて知るべし(以下省略)
[#ここで字下げ終わり]

 右にてカキツバタの語原はよく解るであろう。
 昭和八年六月四日に、私は広島文理科大学植物学教室の職員達と一緒に同校の学生を引き連れて植物実地指導のため、安芸の国山県郡八幡村におもむいた。この八幡村は同国西北隅の地でその西北は石見の国と界している。そしてこの村の田間の広い面積の地にカキツバタが一面に野生し、それがちょうど花のまっさかりな絶好の時期に出会った。私はつらつらそ
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