いのは、尤《もっと》もなことだと思われる。
 今カキツバタの語原をたずねてみると、これはその根元は「書き付け花」から来たものだといわれる。すなわちそれは国学者荒木田久老の説破するところで、この同氏の説はまったく信憑するに足るものと信ずる、よって今左に同氏の説を紹介するが、これは今からまさに百二十一年前の文政四年に出版となった同氏著の、『槻の落葉信濃漫録』に載っている文章である。

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かきつばた

波太波奈《ハタハナ》の通ふ言につきて因に言 かきつばたといふ花の名は燕の翅《カケ》る形ちに似たれば翅燕花《カケリツバハナ》といふ言ぞと荷田大人のいはれしよし 師の冠辞考に見えたるをめでたき考とおもひをりしに 按《オモヘ》ば是は燕子花とある漢字よりおもひよせられしものなり 熟《ツラツラ》考るに万葉七に墨吉之浅沢小野乃加吉都播多衣爾須里着将衣日不知毛《スミノエノアササハヲヌノカキツバタキヌニスリツケキムヒシラズモ》又同巻に かきつばた衣に摺つけますらをの服曾比猟《キソヒカリ》する月は来にけりとありて 上古は今のごとく染汁を製りて衣服を染ることはなくて 榛《ハリ》の実或はすみれ
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