り鮮緑色を呈して平滑である。葉中に緑茎を抽いて直立し一、二葉を互生し、茎頂に二鞘苞ありて苞中に三花を有し、毎日一花ずつ開く。花は美麗な紫色で外側の大きな三片は萼で、それが花弁状を呈し、その間に上に立っている狭い三片が真正の花弁である。萼片の柄の内側に一つの雄蕋《おしべ》があるから、つまり雄蕋は一花に三つあるわけだ。そしてその葯は白色で外方に向かって開裂し花粉を吐くのである。中央に一花柱があって三つに分れ、その枝は萼片の上により添うて葯を覆い、その末端に二裂片があってその外方基部のところに柱頭がある。この花は虫媒花であるから昆虫によって媒助せられ、雄花の花粉を虫が柱頭へ付けてくれる。そして子房は花の下にあっていわゆる下位子房をなし、花後に果実となりついにそれが開裂して種子を放出し、枯れた実は依然として立っている。カキツバタは紫花品がふつうであるが、またシロカキツバタという白花品もあれば、またワシノオと呼ぶ白地へ紫の斑入り品もある。そして本種は同属中で最もゆかしい優雅な風情を持っていて、その点はまったく同属中他品のおよぶところではない。さればこそ昔から歌や俳句などで決してこれを見逃していな
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