三人はあまりに単なる「市民」でなさすぎる。ジェンキンスとセワードとの関係は、すでにわれわれが見たとおりに一通りのものではない。現在の領事裁判長はついこのほど被告の報告に基づいて米国対朝策を進言して、しかも実現の途上にあるのだ。
 フェロン師と仏国官憲との緊密な関係については繰返す必要がない。最後にオッペルトだが、彼はこの事件の「主謀者」というので、輿論は例の調子を最も露骨に示して、「ユダヤ人行商人」「ちゃち[#「ちゃち」に傍点]なハムブルグ貿易商」などと書かせている。だが彼は二年前、二本マストの外輪蒸汽船「エムペラア」号の主人となって朝鮮にゆき、漢江《かんこう》下流一帯の測量をやっている。測量が目的だったのか何が目的だったのか、例によって不明だが、ともかくそのとき、生命からがら潜んでいたフェロン師の密書をことづかって、在支仏国官憲に取次いだという因縁がある。彼とフェロンとの関係はそれ以来だ。こんなふうで指導者たる三国三教人は、いずれも在支当局者との間に、切ってもきれぬ従前からの関係があった者ばかりだ。スペイン領事からの横槍とそれに基づいた「輿論」さえなかったら、何とか無事に済んだ手合で
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