ともかく仏独両国領事裁判の結果を見たうえで処置するということになったから、それだけジェンキンスの公判は、センセイショナルなものになった。
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「解剖のためとか、科学上の目的とか、いうならまだしもだが、金のため、身代金欲しさにやったというんだから……」
「さよう。船には北ドイツ連邦の国旗を掲げていたそうじゃありませんか? いっそ質屋の戸口にぶら下っている、れいの三つの金の玉印を、堂々おったてて行くんでしたね!」
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いずれは、食いつめた植民地インテリ同志の、会話だったんだろうが、「三国三教(ユダヤ教、ジェスイットおよびプロテスタント)、いずれもこの遺骸|劫掠《ごうりゃく》遠征隊中に代表されたれば、真にインタナショナルなる事件というべし」などという前後に、さし挾まれている、ある著者の、批評文なのだ。
当時上海租界の「輿論《よろん》」が大体この辺だったと見ればよい。人でなしの三人に向って、思いきり唾を吐きかけてやる。そうすることによってのみ、「三国三教」――ただしユダヤ教はどうだかしらんが――の名誉と権威を救い出すことができるのだ。しかし同時に、
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