るということは、疑獄検事よりも犯人の方がまず知っているはずだ。いわんや聖骨によって開国を所期するの迂を正銘本気で考えた証拠として、敵の術策に最後まで思いおよばぬお人好しにまで自己を画きあげたほどの用意周到なオッペルトが、どうして金方ジェンキンスについて書こうはずがない。結局、海賊扱いのジェンキンス裁判からと同様、善人呼ばわりのオッペルト紀行からも、依然撥陵遠征隊事件の基本的な謎は解かれていない。
だが、すでにこの事件に関して何が不明であるかがほぼ明らかにされた以上、二、三の合鍵をつくるのは、さまで困難ではないだろう。ジェンキンス裁判当時における輿論や、拘引理由や、「参審」の一人が後年発表したところや、またセワード総領事がワシントン政府に送ったという報告――「一、二の朝鮮王陵よりして遺骨を奪い、おそらくはそれに対する身代金を要求せんと企てたるもの」――は、ジェンキンスが他の何人にも関係なく自分で遠征資金を投機した場合として妥当する。だがそれならばわざわざ「証拠不充分」として、疑惑を残す必要もあるまい。第二に、ジェンキンスが総領事セワードから、撥陵遠征隊のプランを打明けたうえで費用を引出
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