島の官庁へオッペルト一行を招待することを申出て下船したのだ! こうした二重三重の不可能事がかりにすべてありえたとして、そしてそのいっさいが洋夷一行を黒船から陸へおびき寄せて撃つための策略に出たものとして、オッペルトの物語を合理化してやろうにも、翌日上陸後に起った「不祥事」の原因を、あくまでオッペルトは、「一行中唯一人の不徳漢たりし一外人水夫」の所為に帰している。
 彼ら――オッペルト、船長、フェロン師以下――は官兵と仲よく談笑しながら「散歩」していた。その間に例の不徳漢が朝鮮人の小牛を盗んで帰ろうとしたので、朝鮮兵から射撃され、マニラ人が一人即死、一人負傷、問題の不徳漢自身も負傷のため死んだ。「マニラ人は可愛想だったが、事件の元凶たる不徳漢が所詮《しょせん》天罰を免れ能《あた》わなかったという事実は、我々一同を満足させた、小牛はいうまでもなく返却した…………」。
 してみるとオッペルトは、その敵を最後まで疑ってすらみず、引懸った策略の結果をさえひたすら自己側の不徳に帰して自己を責めるほどの、善人中の善人として、いみじくも自己を画き出したものといわねばなるまい。彼の『紀行』中に出てくる悪
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