だしきを見るにつけ、愈々《いよいよ》余は、師の情操品性の稀有なる高潔さを証明し、かつて至純の動機以外の何物によっても行動せることなき人物たるを確言するの義務を痛感する者である」。
 これが全章のまくら[#「まくら」に傍点]になっているのだから、撥陵遠征隊事件はオッペルトによると、アベ・フェロン師の――および師の提言にしたがって全幹部の――稀有なるまで高潔な品性を論証する事例として、展開されるのだ。
 あなたこそ、喜んで手を貸して下さる御方と御見受けしてと前置があって、某日フェロン師が、オッペルトへ、上海租界の茶亭の一隅で、ひどくもったいぶった説教だった。
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「これからおはなししますが、最初びっくりなさるかもしれません。奇怪とも突飛《とっぴ》ともみえましょう。しかし、よくよくお考え下さい、現在わたしたちが望んでいる朝鮮開国の一事を摂政(大院君のこと)に強要する途は、これ以外には絶対にありません。わたくしの案が、奇怪であり異常であるとしても、大事は小策をもって成すべからずということは忘れないで下さい。偏狭な目で見てはならないのです。
 それから、いかにも摂政を強要しよ
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