を本国に送還したが、彼はすぐさまポンジシェリィの布教団へ派遣されて、倍旧の戦闘的ジェスイットとして、「神と祖国のために」極東での経験を役立てることになった。
十二年経った、一八八〇年の三月に、『禁断国・朝鮮紀行』という堂々たる本が、英独両国語で同時に、ニューヨークおよびライプチヒから出版された。「その地理、歴史、生産および商業上の能力、その他その他を解明す」と副題してある。著者はエルンスト・オッペルト。
朝鮮はその四年前に開国して、英国産の金巾《カナキン》を先頭とする欧米商品は日本商人の独占的仲介を経て釜山《ふざん》から、元山《げんざん》から、旧朝鮮を揺動かしつつあったくせに、依然日本以外の国にたいしては厳として門戸を閉じていたから、列強の対朝鮮条約熱はいよいよ高まっていた矢先である。著書としてのテーマ・ヴァリューは相当のものといえよう。今日の日本の出版界だったらさしづめ豪華版と名乗ってもいい装幀で、菊版クロース三百数十頁、本文以外に海図が二葉、插絵が二十一枚、堂々たる朝鮮誌である。もしも最後のたった一章を「その他その他」つまり撥陵遠征隊事件そのものの「解明」に当てなかったとした
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