んで、飛んでもねえ真似を、しやがったに違いねえ。その心底《しんてい》が判ってればこそ、てめえを養子に迎えるはずのお春さんが、てめえの味方になっちゃアくれねえんだ。どうだ、申し開きがあるか」
「………」
「お春さん。そうだろう?」
「わたしは、常吉が殺したとは申しませんが、姉さんと常吉とを較《くら》べますと、姉さんの味方をしたいと、思いますので……」
「よし、常吉。どうだ?」
「わ、わたくしは、子供の時分、御奉公に参りましてから、上のお嬢さんには、いつも優《やさ》しくして頂きました。母親のないわたくしはもったいないことながら、母とも姉とも、お慕《した》いしてきましただけに、お嬢様を殺すなどと、そんな大それたことが、出来るわけはございません。……刃物はきょう、犀角散《さいかくさん》を、削《けず》ることになって居りましたので、磨《と》がしましたばかり。決して、血を落としたんじゃございません」
「それじゃてめえは、お春さんに見られた時ア、離れからの帰りじゃなかったのか」
「………」
「厠《かわや》にゃお春さんが這入っていたんだ。てめえは用もねえのに廊下を歩いていたんじゃあるめえ」
「………」
「よし。もうきくことアねえ。これから、お奉行所へしょっ引いて行って、砂をかましてやるから覚悟しろ。お奉行様は、泣く子も黙る遠山|左衛門尉《さえもんのじょう》様だ。ひとたまりもあるもんじゃねえ。――おお旦那、野郎の部屋にある刃物を、持って来ておくんなせえ」
 そう云うと留五郎は、いきなり常吉にナワをうった。
「へ、へい……」
 源兵衛が、よろめきながら出て行くのを見て、留五郎は体を揺すって笑った。
「伝七兄貴。どうやら片付いたようだ。さア一しょに引き揚げよう」
「いや、折角《せっかく》だが、おいらは残ろう。おめえは気の済むまで、そいつを調べるがいい」
「じゃ何か。お前さんはまだ、外から入った奴の仕業《しわざ》だと、にらんでるんだな」
「そりア判らねえ。だが北町の。おいらアどうもまだ、調べ残しがあるように思われるんだ。おいらは、得心《とくしん》のいくまで調べねえと、飯がうまくねえ性分《しょうぶん》だ。ちっとも遠慮することアねえから、おめえは、先へ引き揚げてくんねえ。なアに、夕方までにゃ帰って、おめえンとこの、仏様に聞いてもらうよ」

     色もみじ

 常吉の縄尻《なわじり》をとって、
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