御開板の遊人三幅対、夏祭其翌年、小野篁伝、天明に移りましては、久知満免登里《くちまめどり》、七笑顔当世姿、御存商売物、客人女郎不案配即席料理、悪七変目景清、江戸春一夜千両、吉原楊枝、夜半の茶漬。なおまた昨年中の御出版は、一百三升芋地獄から、読本の通俗大聖伝まで、何ひとつ落した物のないまでに、拝読いたしてまいりました」
「うむ、そうかい」
聞いているうちに、いつか京伝の膝は、火桶を脇へ突きのけて、座布団の上から滑り落ちていた。
「よく読んだの」
「はいおかげさまで。……」
「しかし、現在お前さんは、何をして暮しているんだの」
「只今は、これぞと申すこともいたしては居りませぬが、曾てはお旗本の屋敷に奉公いたしましたり山本宗英《やまもとそうえい》先生の許に御厄介になって、医術を学んだこともございます」
「ほうお医者さんの崩れかい。それじゃその道で、おまんまは食べられるという訳合《わけあい》か」
「さア、そうまいれば、不足はないのでございますが、宗仙《そうせん》という名前は貰いましたものゝ、まだまだ生きた人間を診察いたしますことなどは、怖くて、容易に手出しは出来ませぬ」
「あッはッはッ」と、
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