、黄表紙が一冊でも書けたら、あっしゃア無え首を二つやりやす。――鹿爪《しかつめ》らしく袴なんぞ履きゃアがって、なんて恰好だい。そいつもまだいいが、兄さんが、何か読んだかと訊いた時の、あの高慢ちきの返事と来たら、あっしゃア向うで聞いてて、へど[#「へど」に傍点]が出そうになりやしたぜ。まず先生のお作ならから始めやがって、安永七年のお書卸しの黄表紙お花半七、翌年御出版の遊人三幅対」
「止しねえ」
「だって、この通りじゃげえせんか。天下に手前程の学者はなしと云わぬばかりの、小面の憎い納り様が、兄さんの腹の虫にゃ、まるッきり触らなかったとなると、こいつア平賀源内のえれきてる[#「えれきてる」に傍点]じゃアねえが、奇妙不思議というより外にゃ、どう考えても、考えられねえ代物でげすぜ」
「もういゝから、あっちへ行きねえ」
京伝は、危く振り上げようとした煙管を、ぐっと握りしめたまま、睨《にら》み付けるように京山を見詰めた。
「聞かねえうちア、滅多にゃこゝア動きませんよ。――あんな干物野郎が、あっしよりもずんと上の作者だといわれたんじゃ、猶更立つ瀬がありませんや。――もし嫂《ねえ》さん。使いだてしてお
前へ
次へ
全26ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング