それはぼくの男としての自尊心を満足させるのと同時にぼくの罪人意識のいたわりにもなるのだった。リエはそのひとと違い、化粧や愛情の表現のカン処を知った巧みな女だったが、小柄なエネルギッシュな肉体や、成熟した女の生理に童女の信頼を兼ねている処が、そのひとに似ていた。更にそのひとに対しては、夫や子供があるのと、ぼくの若い潔癖さから、肉体の快楽を慎んでいたが、リエの場合は、中年男の肉欲に対する強い信仰があり、それから結ばれてゆき、お互いが自分たちの肉体の適応性に飽満した上で、心も結ばれていったので、ぼくはその汚された女のリエに、生れてはじめて、心と身肉の一致した恋をしたと思う。
妻子と違い、いつ「さようなら」するか分らぬ女と思うと、ぼくは余計にリエに惹かれ、子供たち四人の未来を案じ、二六時中クラクラする不安を感じながらも、その不安の強い割合いでリエを抱擁する快感が強く、ぼくはズルズルベッタリに足かけ三年、妻子のもとには生活費を送るだけで、リエと同棲してしまった。リエのぼくに対する爆発的献身的な愛情の裏側には、汚された女としての彼女の病的に強い自己愛が潜んでいるのもみせつけられて遣切れない気持に
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