婦とルンペンを愛し、而《しか》も革命に協力したといわれるソ聯初期の詩人マヤコフスキイみたいに遺書を残し、冷たい拳銃の口を自分のこめかみに押しつけたい欲望にもかられる。
 いまの日本では未だに、軍国時代の無意味な死に方が憧憬されている。三千の将兵が蠅捕紙上の蠅みたいに、戦艦大和にへばりついたまま水底に沈んで死んだ愚かしい悲劇が、偉大な叙事詩の如く感動的に無批判に書かれたものが、数十万の人たちに愛読されている。文明と人道に対する悪辣な犯罪者として処刑された、東条以下の戦犯の愛読作家であり、いわば彼らの基礎哲学の代弁者の作家、吉川英治が依然として百万の愛読者をもっている。一本の剣で数十人のライバルを倒す為、一生、惨憺たる修行をした宮本武蔵という前近代人が、原子力時代といわれる今日でもなお、ぼくたち同胞の英雄として読まれ慕われているという事実は、日本人の近代文明に対する劣等感、嫉妬、軽蔑、敵愾心《てきがいしん》等々から生れた遣切れぬ奇蹟であろうか。そうした同胞のムチモウマイに乗じ更にそれを煽りたて、同胞をある一国の奴隷に売ろうとしている売弁政治家たちにジャアナリスト。
(日本敗れたり)このニュ
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