ズムはいかにもふさわしい。
(死をみること帰するが如し)ヨセヤイ。暗殺は勿論《もちろん》、自殺でさえも人間に対する罪悪なんだ。人間は自分の愛する周囲の人たちや、未来の人類に信頼と責任感を持ち、生命を大切にしなければならぬ。現在、第三次大戦の幻影に脅やかされ、敗戦国との劣等感からヤケ糞になっているとしても、未だに自分たちを信頼してくれる同胞の女子供の無垢な笑顔をみるがいい。人間はどこから来て、どこに行ってしまうのか、現在の知識ではまるで分らないが、しかし子供たちが更に新しい生命を生んでゆく、人間の生活力の逞しい流れだけは掌で触れ、肉眼で眺め得る確かさで信じられる筈だ。その未知な人類の未来を信じ、彼らの築く黄金境の礎石を作るべく、どんなに辛く恥かしく厭らしくても、生きて努力するのがぼくたちの義務と責任である。或いは無償の行為に似た美徳でもある。決してあっさり、この世に、「さようなら」を告げてはいけない。
僅かに残っている僕の理性は、メチャクチャなぼくの生活感情に、こうした忠告をしてくれるのだが、現在、ぼくは自分とその周囲を見渡してウンザリし、正直な話、「皆さん、それでは左様なら」と例の春
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