まを、監督を中心に群がっている人たちの真中へ手際よく投げ下《おろ》した。何十本かの手が夢中でそれをつかんだ。これで引綱が完全につけられたわけだ。鼻づらは、真《まっ》すぐ落ちても差支《さしつか》えのない場所へ静かに引きよせられた。
大きなバケット(桶《おけ》)をさげた起重機がぐうっと上って来て一男の鼻さきでとまった。彼がひょいとそれに乗りうつると、今度はバケットが梁にしばりつけられた怪我人のそばへ寄って行った。もう危険なふらふらした鎖につられた鉄材がわきへのけられていたから平気でそばに寄れるのである。一男の手は風のように早く動いて職工頭をしばってある細引《ほそびき》をほどいて、そのぐったりした体を両腕で抱いた。体の重さで、彼はバケットの中でよろめいた。起重機はすぐにバケットをぐうっと上へ持ちあげ、ゆるく右の方へ廻転しはじめた。
その時、今まで職工頭をのせていた梁は支えきれなくなって、がらがらとあっちにぶつかりこっちにぶつかり、真逆様《まっさかさま》に墜落して行った。見ている人たちの髪の毛はさか立った。
二人を乗せたバケットが自分等の前までさがって来た時、監督をはじめ板張《いたばり》
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