の床《ゆか》の上に立っている人々は、我にもあらず、一斉《いっせい》に歓声《かんせい》をあげた。その中に平吉の声もまじっていた。彼は監督とならんで、バケットの中に山田を抱いている伜の顔を一心に見つめていた。平吉の眼には涙があふれていた。
それを見ると一男も何かぐっとこみ上《あ》げて来て、わけの分からない涙が頬を伝《つた》って、抱いている人の顔へ落ちた。と、急に抱いている山田の体が重くなったような気がした。彼がぽっかり眼をあけたのだ。彼はまず不思議そうに一男の顔を見た。それからあたりをきょろきょろ見まわしていた。
「気がつきましたか」
言いながら一男は山田をバケットの底に立たせた。
その瞬間に閃《ひらめ》くように山田の頭には一切が分かった。
「君は、君は――君が僕を助けてくれたのか。き、きみが――」
山田の両手が一男の両手をしっかりとつかんでいた。その様子を見てみんなはもう一度物凄い程の声で万歳を叫んだ。
一男は何かに感謝したいような気がして目をつぶった。今まで見ていた父の顔が、すうっと母の顔に変った。瞼《まぶた》のうらで母の顔はうれしそうに笑った。
秋空は高く澄み渡り、強い風
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