これからが危いところだ。片一方の支柱だけでやっと支《ささ》えられている梁だ、ぐんと外《はず》れたらそれまでだ。
あと一メートル――。
皆は一度に息をついた。一男はゆっくりと梁の上に手をつき、やがて梁に馬のりになって、まず自分の体を安定させた。が、それからの仕事は手早かった。彼は細い方の綱の輪《わ》を首から外すと、死んだようになっている人の体にのりかかって、機敏に縄をかけた。あっという間に、怪我人の体は梁にしっかりと結びつけられていた。
見上げている連中は、ここで何とか声がかけたかった。だが、岸本監督はすぐに様子を察《さっ》して皆を制した。
「まて、あいつが何とかいうまで黙っていろ」
しかし、一男は口もきかず、みんなの方を見ようともしなかった。彼にはまだ仕事が残っていた。第一に怪我人の様子をたしかめなければならない。それから、起重機の鎖から危くぶらさがっている物騒《ぶっそう》な梁に、巧《うま》く引綱《ひきづな》をしばりつけなければならないのだ。
一男は怪我人の背中に手をつき、戦闘帽型の帽子をぬがせた。そして覗《のぞ》き込んだ彼の眼に映ったものは意外にも職工頭の山田の顔だった。ニ
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