来て、
『もうこりごりです。男の劇団はいやらしくてイヤだわ。二度とああいうところへは行きません。』
と言う。非常にまじめな潔癖な娘だった。最後は許婚者が大尉だったので、歌劇がイヤになったのじゃないけれども、当時は軍人の細君は芸人では結婚が許されなかったので、嫁にいくために宝塚を退いて、花王石鹸の女事務員になった。そうして、まだ結婚しないのに、許婚者のお母さんのところへ行っていて、そこで空襲を受けて亡くなった。
 それから萬代峯子とか、先だって死んだ園井恵子なども感心した生徒だ。園井恵子は北海道から出て来て、女給になろうか、歌劇に入ろうかと思い悩んだ。当時、南部という舎監がいて、それに相談した。
『自分は親兄弟を養わなければならないが、歌劇に入ったら幾らもらえますか。』
と聞いていろいろ相談した末に、
『宝塚へ入った方がいいでしょう。』
ということだったので、こちらに決めたらしい。これも実にまじめな娘で、親兄弟を北海道から呼んで、家を持たして働いていたが、かわいそうに広島の空襲で亡くなった。
 また、大江美智子一座というのを知っているでしょう。大江美智子は大阪北の新地の舞妓に出ようという 
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