いうことになるが、私はそうは思わない。というのは、世の中に女ほど器用な者はないからだ。
 うちの歌劇なんか、男をこれだけに育てることは不可能だ。料理にしても、うまいものは男でなくてはならんかもしれないが、家庭ですぐ間に合うものをつくるのは女である。今宝塚はかれこれ四、五百人の生徒でやっているが、男だったらこんなことがやれるものではない。年中喧嘩だろう。今は一人一人が光る歌い手であり踊り手であり、演技者であることが必要になって来ている。それには女の方が器用である。そして宝塚には男の世界にない、女でなければできない雰囲気があると思っている。
 宝塚の生徒で感心する娘が幾人もあった。その一人に糸井しだれというのがいる。これは初め全然認められなかったが、黙々と勉強していた。それをカラスロア先生が舞台の袖で聞いていて『私が教えよう』といって教え出した。すると彼女の歌は、ぐんぐん伸びてそれから認められて来た。
 戦争中北支の皇軍慰問につれて行ったとき、あの娘だけが朝は早くから起きるし、駅に着けば疲れもいとわずに降りて歌うし、だれよりも頑張る。あるとき古川ロッパ君の一座に貸したことがあったが、帰って
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